第1部で「デジタル遺品」の重要性について理解していただけたと思いますが、ここでは実際にどのようにそれらを安全に管理し、スムーズに相続人に引き継ぐかを説明します。デジタル終活は煩雑で時間のかかる作業に感じられるかもしれませんが、実はシンプルで効果的な方法が存在します。
デジタル終活とは何か?シンプルな「合鍵」を作ろう
デジタル終活と聞いて、デジタル機器のすべてを整理する大がかりな作業を想像するかもしれません。しかし、現在進行形で使用しているデジタル機器やアカウントをすべて細かく整理するのは、非常に時間と手間がかかります。そこで、デジタル終活の簡単かつ効果的な方法としておすすめなのが「合鍵を作る」という考え方です。
「合鍵」とは?
デジタル機器の持ち主が亡くなると、その人が使用していた機器やアカウントはまるで「家の鍵を失った状態」と同じです。しかし、合鍵があれば問題なく家に入ることができます。デジタル機器やオンラインアカウントにおいて、この「合鍵」に相当するものが「重要なパスワードを把握しておくこと」です。
「合鍵」を作るためのシンプルな方法
「合鍵」を作るのに特別なツールは必要ありません。紙とペンがあれば、誰でもすぐに準備できます。以下の情報を紙に書き出して、通帳や実印と一緒に安全な場所に保管しておくことが重要です。
必ず書き出しておくべき項目
- スマホやデジタル機器のパスワード
- 複数のデジタル機器(スマホ、タブレット、パソコンなど)を所有している場合、すべてのパスワードを書き出しておきましょう。
- ネット銀行、ネット証券などの金融資産に関する情報
- 銀行や証券口座の名称、ID、パスワード、そしてそれらのアカウントで何をしているのか(入金先や出金先など)を記載します。
- SNSやブログのアカウント情報
- 各SNS(Facebook、Twitter、Instagramなど)やブログのアカウントとパスワードを記録します。また、アカウントを閉鎖してほしいか、最後にメッセージを残してほしいかなど、具体的な希望も記載しておくと良いでしょう。
セキュリティ対策としてのマスキング
生前にこれらのパスワードを記載した紙(丈夫で表面にコーティングがされていると尚良)保管する際は、セキュリティの観点からパスワード部分を修正テープなどで隠しておくのがおすすめです。修正テープを2~3回重ねてかけ、必要なときにセロハンテープで修正テープを剥がすか、硬貨で削ることで、パスワードを確認できるようにします。これにより、情報の漏えいを防ぎながらも、緊急時にはスムーズにアクセスできます。
デジタル終活の強力なパートナー:パスワードマネージャーの活用
さらに一歩進んだデジタル終活のためには、パスワードマネージャーを活用することも非常に有効です。パスワードマネージャーを使うと、複数のアカウントやサービスのパスワードを一括で管理でき、相続時に相続人が簡単にアクセスできるようになります。(執筆時)
GoogleとAppleのパスワードマネージャー
Googleパスワードマネージャー
- Googleアカウントに紐づけて、ChromeブラウザやAndroidデバイスでのパスワードを管理できます。
- パスワードの自動入力やセキュリティチェックが可能です。
AppleのiCloudキーチェーン
- Apple製品を使用している場合、Safariやアプリ内でパスワードを自動入力し、すべてのデバイス間で同期されます。
- 簡単に使えて安全性が高いですが、万が一に備えて、相続時のアクセスについては別途準備が必要です。
緊急アクセス機能を備えたパスワードマネージャー
緊急時に相続人がパスワードマネージャーにアクセスできるようにする「緊急アクセス機能」を提供しているサービスもあります。ただし、GoogleやAppleのパスワードマネージャーではこのような機能は提供されていません。(執筆時)
LastPass
- LastPassの有料プランでは、緊急アクセス機能を利用して、あらかじめ指定した相手が一定期間後に自動的にアクセスできるように設定可能です。
- 指定された時間内にアクセスリクエストを拒否しなければ、相続人がアクセスできるようになります。
1Password
- 1Passwordには緊急アクセス専用の機能はありませんが、ファミリープランを利用することで、家族と特定のパスワードや情報を共有し、万が一の場合でもアクセスできるようにすることができます。
プライバシーと倫理的側面の考慮
デジタル遺品を管理する際には、故人のプライバシーを尊重することも重要です。例えば、故人のSNSアカウントをどのように扱うか、プライベートな情報を公開する範囲をどうするかなど、家族間で事前に話し合っておくことが大切です。
まとめ:デジタル遺品を安全に引き継ぐために
デジタル終活は、煩雑な作業ではなく、簡単に始められます。スマホやパソコン、ネット銀行、SNSのアカウント情報を整理し、紙に書き出して合鍵を作ることで、相続人がスムーズにデジタル資産を引き継げます。また、パスワードマネージャーを活用することで、より安全に管理でき、緊急時にも安心です。私見になりますが、LastPassは日本語のサポートページがないため、高齢者の方にはApple IDやGoogleアカウントのパスワードを「合鍵」として保管する方法が現状では最も適しているかもしれません。
デジタル終活は、今すぐ始められる手軽な作業です。ぜひ、今日からあなたのデジタル資産を守るための一歩を踏み出してみてください。