地域包括支援センターで働いていたある日、担当しているご利用者の方が穏やかな表情で「私は尊厳死宣言をしているから大丈夫」と話してくださいました。その方は、すでに亡くなられたご主人と一緒に尊厳死宣言を行い、その安心感を心の支えにしているのだとわかりました。この時、私は初めて「尊厳死宣言」がどのような意味を持ち、どのように役立つものかを知りたいと強く感じ、調べてみることにしました。

尊厳死宣言とは?

尊厳死宣言とは、終末期の医療やケアについて、自分の意思で「延命治療を希望するかどうか」を事前に示すための文書です。人生の終盤に、本人の意思が尊重され「自分らしい最期」を迎えるために、尊厳死宣言はとても重要な役割を果たします。これを準備することで、医療者や家族が最期のケアについて迷わず対応でき、本人の希望通りの医療を受ける可能性が高まります。

尊厳死宣言と救命救急の関係を知る

調べる中で最初に浮かんだ疑問は、尊厳死宣言と救命救急の関係でした。例えば、急な事故や発作で救急搬送された際、医師が尊厳死宣言の存在を知らなければ、通常通り救命措置が取られます。つまり、尊厳死宣言の内容を医療現場でどのように伝えるのか、という点に課題があると感じました。

救急医療の場では患者の意思を即座に把握するのが難しいため、尊厳死宣言を持つ場合には家族や近しい人に内容を事前に伝えておき、救急時に周囲が意思を代弁できるよう備えておくことが大切です。また、尊厳死宣言を携帯カードとして持ち歩く方法も、一つの解決策です。

尊厳死宣言は「救急時の対応」だけでなく「終活」の一部

さらに調べていくうちに、尊厳死宣言が単に救急医療の場面だけでなく、終活の一環として非常に重要な役割を果たすことに気づきました。尊厳死宣言は「延命治療の有無」を示すだけでなく、終末期をどのように過ごしたいか、自分らしい生き方を最期まで貫くための自己決定を形にするものです。

尊厳死宣言を通じて自分の価値観や意志を明確にすることで、病気や高齢による身体の変化が訪れても、本人が望む形でのケアや医療が進められる可能性が高まります。家族にとっても、本人の希望が明確であれば、終末期のケアに迷うことなく、本人らしい最期を支えることができます。

尊厳死宣言公正証書の作成支援について

尊厳死宣言は「公正証書」という法的な形で作成することも可能です。これは、自分の意思を公証人が公正証書として作成・保管することで、医療現場で本人の意思がより確実に伝わる方法です。以下、尊厳死宣言公正証書のメリットや作成手順をご紹介します。

公正証書にするメリット

法的効力の確保:公正証書は公証人が作成する公文書であり、法的な証明力が高く、意思が確実に伝わります。

偽造・紛失の防止:原本は公証役場で保管されるため、偽造や紛失のリスクが低減されます。

内容の明確化:公証人が内容を確認・作成するため、意思表示が法的に有効で明確なものになります。

作成の手順

1. 原案の作成:自分の意思を明文化した原案を準備します。内容が不安であれば専門家に相談することも可能です。

2. 公証役場での打ち合わせ:公証人と内容の確認や修正を行います。出向が難しい場合には、公証人の出張も可能ですが、別途費用がかかります。

3. 公正証書の作成:公証人が正式な文書を作成し、最終確認後に署名・押印を行います。完成した正本・謄本は本人に渡され、原本は公証役場に保管されます。

自分らしい最期を迎えるために、終活として尊厳死宣言を考える

尊厳死宣言は、終活を進める中で「自分の最期の姿」を考え、意思を明確にするきっかけになります。そして、その内容を家族や医療者と共有することで、いざというときに周囲が本人の意志に沿った対応ができ、本人も家族も安心感が得られます。

私がこのテーマに興味を持ったのは、担当する方が尊厳死宣言を通じて得た安心感を、穏やかな表情で話してくれた瞬間でした。尊厳死宣言があることで、自分が望む形での人生の締めくくりを見据えることができる、その意義を深く感じています。

もし尊厳死宣言に興味を持たれたなら、まずは自分の気持ちを整理し、家族と話し合ってみるのもよいかもしれません。人生の最後にどうありたいか、どう過ごしたいかを考えることは、決して早すぎることはありません。自分らしい生き方を貫き、穏やかに最期を迎えられるよう、一度じっくりと考えてみてはいかがでしょうか。

尊厳死宣言を作成するための具体的な手順と必要書類

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