こんにちは。上松行政書士事務所の上松です。

前回の記事では、Aさんの事例を通して任意後見契約を簡単にご紹介しました。今回はその任意後見契約について、もう少し深掘りして解説していきます。

前回の記事⬇︎

自分らしい最後を迎えるために――介護施設を知って早めの準備を

そもそも任意後見契約とは?

任意後見契約は、将来もし認知症などで判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ「自分の意思」で信頼できる任意後見人候補者と契約を結んでおく制度です。

• 法定後見(後見・保佐・補助)は、すでに判断能力が低下してしまった方を対象に、裁判所が後見人などを選任して支援する制度です。

• 任意後見は、判断能力がしっかりしているうちに「将来の支援内容や支援者」を決めておけるという大きなメリットがあります。

「将来のことを自分で選べる」

これが、任意後見契約のいちばんの魅力です。

任意後見契約の3タイプ

ひとくちに「任意後見契約」と言っても、開始時期や目的に合わせて3つのタイプに分けられます。

1. 将来型任意後見契約

• どんな契約?

将来、認知症などで判断能力が低下したときに備えて契約しておくタイプ。契約を結んでも、すぐには効力は発生しません。

• いつ始まる?

実際に判断能力が低下し、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任した段階で効力が生まれます。

• こんな方におすすめ

「今は元気だけれど、将来に備えたい」

「認知症になったら、信頼できる人に財産管理などを任せたい」

という方。

• 注意点

 判断能力が低下してから、家庭裁判所で選任手続きを行い、ようやく任意後見人が活動を始められます。それまでに時間がかかる場合があります。

2. 即効型任意後見契約

• どんな契約?

契約を結んだ直後から、任意後見人が代理権を行使できるタイプ。

• いつ始まる?

家庭裁判所に申し立てを行い、監督人の選任を受けるとただちに任意後見人として活動開始できます。

• こんな方におすすめ

• 「すでに判断能力が少し衰えてきているが、法定後見になるほどではない」

• 「判断能力がまだ残っているうちに、すぐに支援してほしい」

といった事情がある方。

• 注意点

将来型と比べて早めに後見業務を始められますが、すでに判断能力が低下しかけているケースに使われることが多いため、状態をしっかり把握する必要があります。

3. 移行型任意後見契約

• どんな契約?

「事務委任契約」+「将来型任意後見契約」をセットで結んでおくタイプです。

まずは事務委任契約で、現在の財産管理や諸手続きを依頼しつつ、将来さらに判断能力が低下した際に任意後見契約へ“移行”させる仕組みになっています。

• いつ始まる?

1. 契約締結後、まずは「事務委任契約」に基づきサポートを開始

2. 判断能力が低下し、裁判所が任意後見監督人を選任した段階で「任意後見契約」に移行

• こんな方におすすめ

「すでに一部サポートが必要だけど、まだ判断能力は残っている」

 「将来もしものときに、引き続き同じ人に任せたい」

• 注意点

 事務委任契約と任意後見契約を連続して活用するため、実務上の手順や費用、管理範囲などについて、あらかじめ公証人・専門家と十分に協議しておく必要があります。

事務委任契約ってなに? どんなことを頼めるの?

事務委任契約は、本人の判断能力がまだ十分にある状態で「特定の事務作業や財産管理」を誰かに委託するための民法上の契約です。一般的に、以下のようなサポートを依頼できます。

1. 財産管理業務

• 銀行口座の入出金管理

• 公共料金や家賃などの支払い代行

• 不動産賃貸や契約更新手続きのサポート

2. 医療・介護サービスの手続きサポート

• 病院や介護施設との連絡・手続きサポート

• 通院や受診の付き添い、予約調整など

• 介護保険の申請やケアマネジャーとの連携

3. 日常生活のサポート

• 買い物や生活必需品の手配

• 行政手続き(年金・税金など)の代行・補助

• 各種書類の確認・作成サポート

ポイント

• 判断能力があるうちに自分の意思で結ぶため、必要な事務作業だけを依頼できる。

• 後になって判断能力が低下してしまった場合でも、「この人にお願いしたい」という意思を前もって形にしておける。

• ただし、完全に判断能力を失ってしまった後は、事務委任契約だけでは不十分になります。そこで任意後見契約へ移行することで、より強固な法的保護を得ることができるわけです。

種類別メリット・デメリットまとめ

タイプ メリット デメリット

将来型 ・将来のリスクに備えられる・元気なうちに信頼できる人を決めておける ・判断能力が低下した後、監督人選任までのタイムラグがある

即効型 ・契約後すぐに代理権を行使できるため、実務的な支援が得られる ・ある程度判断能力が衰えかけている段階でないと活用しにくい

移行型 ・必要になった段階ですぐにサポートが始められる・同じ支援者が継続して対応可能 ・契約内容や手順が複雑・公証人や専門家への相談が増え、費用や準備に手間がかかる

事務委任契約 ・判断能力が十分ある段階で、柔軟にサポートを依頼できる・選んだ相手と細かい業務範囲を調整しやすい ・あくまで「民事上の委任契約」のため、本人の判断能力が失われた後は法律的に不十分(任意後見など別の手続きが必要)

任意後見契約を考えるときのポイント

1. 自分の状況に合ったタイミングとタイプを選ぶ

• 「まだ元気」「すでに少し怪しい」「すぐに支援してほしい」など、人によって状況が異なります。

• 公正証書で契約を結ぶ前に、専門家(行政書士・司法書士・弁護士など)とよく相談しましょう。

2. 信頼できる後見人候補者を確保する

• 契約相手は家族でも第三者でも構いませんが、長期にわたって「自分の代理」を任せられる信頼関係があるかが重要です。

3. 家族や周囲の理解を得る

• 任意後見契約はトラブル回避に有効ですが、契約内容を周囲にしっかり伝えておかないと、後々「聞いていなかった」「そんな契約知らない」といった問題が生じるかもしれません。

4. 費用や手続きの流れを把握する

• 任意後見契約には、公証役場での手続き費用や将来の監督人の報酬などがかかる場合があります。

• 契約書作成→公証役場→家庭裁判所への申し立てといったプロセスを一通り把握しておきましょう。

• 移行型の場合は、事務委任契約の報酬や対応範囲についても事前に確認しておくのがおすすめです。

まとめ:自分の意思で未来を守る

• 任意後見契約は、将来の判断能力低下に備えて自分の希望を反映させられる制度です。

• タイプによって始まる時期や活用の仕方が異なるため、ご自身の年齢・健康状態・希望に合わせて適切な契約を検討することが大切です。

• 事務委任契約は、判断能力がまだある段階で広範囲のサポートを受けられる便利な仕組みですが、将来の認知症リスクに対しては任意後見と組み合わせることが重要となります。

• 「元気なうちから備えること」こそが、トラブルや不安を最小限に抑えるコツです。

「自分の人生をどう終えたいか」

まずはその第一歩として、任意後見契約や事務委任契約の存在を知り、活用を検討してみませんか?

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おひとり様におすすめの任意後見契約と死後事務委任契約

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第1部: 「成年後見制度の基礎知識|法定後見が必要になる場面と具体例」

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当事務所では、任意後見契約のご相談から契約書作成、公正証書化の手配、さらには移行型契約に必要な事務委任契約の具体的な内容のご提案まで、トータルにサポートしています。

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